自壊する帝国 asin:4101331723
「自壊する帝国」佐藤優(図書館)を読む。面白い。
全編ほぼソ連。外交官の作者が入省してから、ソ連崩壊に立ち会うまでを振り返る自伝。というか小説なんじゃないだろうかコレ。特にサーシャという人物は創作なんじゃないかと今でも疑っている。立身出世モノとして序盤がわくわくし、終盤寂寥感が滲むのも既視感(既読感)。
サーシャはソ連について著者を導く役回り。KGBについて
マサルKGBが怖いというのは神話だよ。あいつらはテクノクラートだ。怖いのはKGBではなく政治だ。政治が秘密警察をどう使うかということだ。政治がKGBを使えないような状況が今生まれている」
と説明。サーシャの反政府運動KGBに知られているのだが
「モスクワから指令がない限り動かない。モスクワから指令があれば平気で事件をでっちあげる。だからKGBに怯えても意味がない」
と諭す。手足ではなく頭を恐れよ、という事か。
ソ連政府に抗する動きは「反体制派」*1と異論派に分かれる。ソ連政府(体制)を倒す動きが「反体制派」で、ソ連政府(体制)の中で改革する動きが異論派。異論派がブレジネフ時代、精神病院へ送られるロジックは以下。
ソ連体制は素晴らしい。そのソ連体制を悪いものだと思っているのは病気だから、精神病院で保護・隔離・治療しなければならない」
"古本屋は反体制と通じる"くだりも痺れる。"禁書"なんて単語、アニメ以外で初めて見た。恩田陸の書評本「土曜日は灰色の馬」の推薦で「自壊する帝国」を読んだのだが、彼女も このくだりは魅かれたに違いない。
ソ連末期、インフレが進んで硬貨が流通しなくなって公衆電話用のコインが不足し、2コペイカが50コペイカ〜1ルーブルという訳のわからない事態に。
本書は主にソ連の政治の話なのだが、当時ソビエト連邦を構成していたバルト3国についても多く頁が割かれている。『人間の鎖』とか『歌いながらの革命』とか何となくヒューマンな独立運動のイメージがあったのだが、本書を読んで超ドロドロな印象に。まあ、これはこれで面白いけど。
春先にトーポリ(泥柳)から綿が飛ぶのは柳絮と言えば良いのじゃないだろうか。トーポリでも春先に花粉症になるとの事。
用語メモ 道標派*2 異端派 分離派*3 モロゾフ*4 ユーラシア主義 リンガフランカ エスノクラシー*5 パブリック・モロゾフ ピオネール
ロシア正教の 黒司祭(修道) 白司祭(在俗)  
ロシア(ソ連)本リンク現実 小林和男「1プードの塩」
ロシア(ソ連)本リンク虚構 仁木稔「ミカイールの階梯」

*1:ソ連内の用語としての狭義の「反体制派」

*2:日露戦争後のロシアにおけるマルクス主義批判の一派

*3:ロシア皇帝から弾圧されたロシア正教の一派

*4:ロシア正教分離派の一族が日本に亡命し、チョコレートを製造

*5:自民族中心主義。ラトビアでは独立後、全国民に対して語学試験を行い3カテゴリーに分け、就官権のみならず、企業での管理職に就く権利すら制限しようとした