天帝のはしたなき果実 (講談社ノベルス)
「天帝のはしたなき果実」古野まほろ(図書館)を読む。面白い。
メフィスト賞受賞作。主人公は吹奏楽をする高校生。
ミステリと思って楽しもうとすると肩透かしをくらう。ミステリもある小説だと思ったほうが良い。
前半つらかった。まず最初の数頁でルビ過多の文章に軽く拒否反応。後半慣れたけど、ルビ振る言語が複数なのも統一感なくて入り込みにくい。
なによりミステリの投下が遅い。謎の気配すら無い。説明と伏線の配置は必要だろうが、配置してるだけでストーリーが動き出す楽しみがない。ミステリでないのは構わないが、前半は小説ですらないようだ。
読み進めてわかるのは接地感の無さ。1度読み終えれば「こういう世界か」とわかるが、読中は与えられた情報(その世界の史実)をただ受け取るだけで考えようとは思わない。何かを考えるには前提があやふやすぎる。
後半はミステリ部分も含め楽しめた。穴も大小多々あるが、小説の楽しみって整合性とは別だ。
推理パートは竹本健治匣の中の失楽」を思わせる複数探偵制。このパターンは好み。
この小説最大の引っかかりは主人公の殺害幇助だが、その動機は「恋人を犯人扱いされたから」でも「自分の病歴を暴露されたから」でもなく、単に色仕掛けで転んだからが理由に見える。604頁→718頁と読んで素直にそう解釈した。「手紙をたまたま持っていた」のと「犯人にできそうだった」の2点から前もって犯人役を決め、殺害の手順を打ち合わせたと見るのが妥当。公衆の面前で手紙を犯人役のものと思わせるなんて、どういう"早業"だか不明だし、監視カメラの確認と小包発送の確認をすれば殺害者が誰か警察にわかりそうなもんだけど。
また、登場人物は皆、ラストシーン以前に真相がわかっていて何もしないというのは どんなもんなんだ。もっと根本的に権力やら不思議能力やらあったのに、ミ ス テ リの作法で殺すか。
あと、奥平爺は何でお宝を掘り出さないんだ。否、作品で書かれてないだけで、実は掘り出してたのか。なら何故まだお宝が掘り出されてないと思われているのかが問題なのかな。
という多少の穴はあるにせよ、読後に読み返したくなる作品だった。38頁後半とか119-124頁とか。
素でわからないのが、冒頭10-11頁の"シーツの上探してたもの"って何。全部読み返すのは骨だ。もう少し全体的に削れなかったのだろうか。歌詞とか。
作者は読み初めで女性かと思ったが、読んでいくうちに"メンタル・フィメール"かなと。
感想リンク  書評風さん 木耳さん
語彙集
まほろば→素晴らしい場所
茶会(MTP)*1→「不思議の国のアリス」の気違いお茶会(MAD TEA PARTY)かと。
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*1:649頁