ドキュメント 戦争広告代理店〜情報操作とボスニア紛争 (講談社文庫) ISBN:4062108607
「ドキュメント 戦争広告代理店」高木徹(図書館)を読む。面白い。
ボスニア紛争メディア戦。
ボスニア・ヘルツェゴビナ政府は優秀なアメリカのPR会社と契約した為、敵対したユーゴスラビア連邦政府(セルビア共和国)に情報戦で打ち勝ったという仮説を本書で展開。著者はNHKのテレビマン。NHKテレビドキュメントを製作した際のスピンアウトが本書という事であろうか。
ユーゴスラビア連邦が国連から追放されるまでを描いている。
・まず、米PR会社の有名なエピソードが心に残った。
イラククウェート侵略の時、アメリカ議会で「クウェートの15才少女」が証言台に立ち、「イラクの非道」を証言した。「イラク兵は病院に押し入り、赤ん坊を保育器から取り出し、投げ出し、殺した」と。全米は信じ、この証言がどの程度影響したのかは測りがたいが、アメリカは軍事行動を起こす。湾岸戦争終結後に、全て*1でっちあげである事が判明する。筋書きはアメリカのPR会社。(本書の主役とは別のPR会社)
・国内のセルビア人勢力と内戦中だったボスニア=ヘルツェゴビナ政府は、外相を国外に出し、アメリカのPR会社を雇う。外相は以降ほとんど帰国せず、本書を読むと「外相とPR会社」が臨時亡命政府のような存在感だった。(や、本国にしっかり政府が存在してるけど)
アメリカのトーク番組に出た外相は
「なぜアメリカはボスニア・ヘルツェゴビナに関与しなければいけないのか。アメリカのメリットは どこにあるのか」
という意地悪でシリアスな質問を受け、ボスニア・ヘルツェゴビナの惨状を説明し
"Enough is enough,that's why"(もうたくさんなんだ。それが答えだ)とめた。
使える英会話だ。
ボスニア紛争では、各民族が敵対する民族を徹底的に排除した。それは現地で「エトゥニチコ シチェーニェ」という語になる。当時「エスニック クレンジング」と「エスニック ピューリファイリング*2」の2語が英語で併用されていたが、PR会社は語の響きから「エスニック クレンジング」を選びキャッチコピーとした。日本語だと「民族浄化」。
しかし外相は「エスニック クレンジング」より「ジェノサイド」(虐殺)という語を多用すべきと主張。結局はPR会社に従ったが不服だった。
ボスニア・ヘルツェゴビナ国内のセルビア人勢力と「繋がりがあるといわれる」セルビア共和国がPR会社の敵。セルビア共和国大統領ミロシェビッチを"サダマイズ"するよう世論を導いた。"サダマイズ"とは"サダム・フセイン化"の事。
強制収容所(concentration camp)というのも、西洋では威力のある言葉らしい。単に捕虜収容所なのか、それともナチスを思わせる強制収容所なのかが重要な意味を持っている。
・当時のガリ国連事務総長
「世界はサラエボ(ボスニア・ヘルツェゴビナの首都)より、もっと苦しい状態にある場所が10ヶ所はある。(ボスニア紛争は)所詮は金持ち同士が戦っている紛争だ」と発言。
セルビア共和国側は国際世論を有利にする為、アメリカ人をユーゴスラビア連邦首相とする(ユーゴスラビア連邦内の主要国はセルビア共和国)。ミロシェビッチ大統領の発案。ユーゴスラビアからアメリカに亡命し、起業し、国際企業にまでしたパニッチはアメリカ国籍のまま、ユーゴスラビア連邦首相となる。こんなんあり得るのか。
パニッチはイメージ戦略の為の傀儡だったとは思えない。最終的には状況打破のため、彼を招来したミロシェビッチ大統領を追い出そうとする。ミロシェビッチと大統領選を争い、34%の得票を得、敗れた。結局パニッチは米国に帰り、社長業へと戻る。
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本書でPR会社のアクションやメリットはわかったが、全体に及ぼした影響は本書そのままに鵜呑みできない。本書がコソボ紛争の"部分"を語っていて、語られていない"部分"は結構大きそうだな、と思うから。
それはそれとして。
日本人は危険地域にジャーナリストが行けない風潮だから、他国が加工した情報を目をつぶって食べるしかないのか。
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*1:15才少女は イラク軍占領時クウェートにはおらず、話もでっちあげ。

*2:purifying