はてなダイアラーが選ぶ”このミステリが凄い”

トランプ殺人事件 (創元推理文庫)
私のベストミステリ:「トランプ殺人事件」竹本健治
文庫で出ているがハードカバー版が良い。図書館(のおそらく書庫)にあると思う。
ベストミステリというか「刷りこみ」に近いものかもしれない。雛が最初に見たものを親と思うアレ。「最初の一撃(ファーストインパク)」とも言う。
昔はミステリを馬鹿にして読まなかった。痴情のもつれだの端金(はしたがね)だのどうでもよい理由で ちまちま人を殺してスケールの小さいことよ、と思うSF小説読みだった。そんな小者(犯人)誰でもいい。殺すんだったら人類全部を殺せるSFのほうが断然良いと確信していた。
そこで「トランプ殺人事件」に頭を思いっきり殴られ、転向する。
本書はシリーズで、三作目から読み始めてしまったのだがそんな事は些細な事だった。
なにしろ面白すぎて、犯人が誰かなんてどうでもよくなる。状況に惑乱されっぱなしで「いったい起こっているのは何事なのだ」と夢中になる。つまりフーダニット(誰?)のミステリではなくホワットダニット(何?)のミステリだったという事だが今考えるとそれはSFに近い。
更に関係ないと思われたサブストーリーが最後に一気に繋がる衝撃。小説の構造がトリックになっているのを読んだのはこれが最初。この後バルガス・リョサ等のラテン文学を読み「パルプ・フィクション」を映画で観て、その後どっと話の構造自体に仕掛けがある物語が流行するが(ラテン文学→「パルプ・フィクション」→一般化という世界的な流れだと思っている)「トランプ殺人事件」を読んだ当時、SFですら話は時間軸に沿って行儀良く退屈に並んでいた。本書を読み終えたとき読み返さずにはいられなくなったのも無理ない。
さて本書を読み進めて行くに最初の障壁だが、コントラクトブリッジのルールを覚えなければならない。冗談ではなくかなりの頁を割いてルール説明に費やしているので、カードの基本的な用語ともども理解しないとちっとも楽しめないこと請け合い。