実測!ニッポンの地域力 
「実測! ニッポンの地域力」藻谷浩介(図書館)を読む。面白い。2007年発行。→amazon
「デフレの正体」*1の著者の本業本。この人たしか地域振興が本業だった筈。
データ*2で地域を読み解く。佐貫利雄*3が好きだった人は本書も楽しく読めるのではないだろうか。著者の重要視してるのは、まず生産年齢人口*4(などの人口動態)。次に小売販売額あたり。
著者の考える発展地域として福岡市の都市圏*5を挙げているが、東京・名古屋・福岡を比較して、95-00年の間に就業者数が増えたのは福岡だけだと注目*6。「乗り遅れが生み出した日本一の活力」と福岡にコピーを付けている。
また鹿児島県を、所得は低いが消費水準は高いとして発展する地域としている。逆に西三河圏(愛知)を所得は高いが貯蓄にまわされてしまい、地域のストックとして蓄積されない悪例として解説。これは膨大な経常収支を持て余し、有効に国内投資されない日本の縮図と解説。夕張市財政破綻も「石炭産業が興隆の時代にも民生部門のストックに投資せず、低規格住宅が広くひろがる都市構造を形成した」と分析*7
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少し地域分析とは異なるが余談として
・05年からのミニバブル
出生率と女性就労率
についての言及が興味深かった。
・2005年06年のミニバブルは1945年46年の出産の少なさが原因で、2005年06年の2年間だけ新成人と定年年齢60歳*8が同数で実働人口*9の減少が止まっていたと注目している。やがてミニバブルは破裂するだろうと、2007年の時点で見通している。(いざなぎ超え景気は2002-2007年。マイナス成長は08年4-6月期から。)
・また著者は生産年齢人口の減少の対策に「女性就労率増加」を提唱している。
女性就労率増加を唱えるとあらゆる層の男から「少子化が加速するのでは」と反論されるとの事。それはデータを見ない思い込みらしい。
女性就労率は戦後一貫して5割弱(1950年48%、2005年45%)で、最近10年間の就労率は若干減少傾向でさえあると著者。近年の出生率低下と女性就労率は無関係であるとの事。共働き女性と専業主婦では前者の方が子供の数が多い傾向にあると記し、オランダでは85年に41%だった女性労働力率が雇用流動化・男女協働化政策の甲斐あり2000年には65%に上昇したが、出生率も1.5から1.7に改善しているとの事。
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本書に出てくる地域
6章「本当に勝ち組みなのか」*10
首都圏 2000年から実働人口*11が減少に転じている。地方圏に遅れて事態が進行してるだけ。
西三河 所得が消費や投資にまわっていない。
静岡県 豊かだが集積性は無い。
仙台都市圏 00-05年に人口の社会増がゼロに。思ったより成長が止まるのが早かった。
7章 意外な実力
沖縄県 就業者数増加率日本一(95-00年)。
鹿児島 所得が低くても消費は活発。
福岡市 日本一の活力。
高知県 Uターン人口が多い。
滋賀県 人口増加が最も長続き
甲信地方 農工底堅い
栃木県 足利銀行破綻後も東京以北では唯一人口が社会増な県。
青森市佐世保市 コンパクトシティ
8章 その他
北海道 豊かで若いが、今後高齢者が急増。
茨城県 豊かだが、つくばエクスプレス沿線の地価が相場と釣りあわず、開発進まず。
富山県 豊かだが、消費は弱い。北陸新幹線開通で更に地盤沈下するだろう。
関西圏 規模的にはG7で3番目の巨大都市圏なのだが、実力が活かされていない。阪神の観客動員が巨人のそれを上回っているのは商圏規模を球団数で割れば当然の数字。高齢化は首都圏より急激。
奈良県 日本有数の人口流出県。
中海・宍道湖地域(山陰) 山陽よりは人口動態は好調。90年代後半は社会増。
広島都市圏 停滞は製造業の所為ではなく、拠点性の弱さによる商業の不振。
山口県 日本一の工業県(生産性の高さ・出荷額の伸び)だが、人口の自然減社会減ともにワースト。著者の故郷。
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ちなみに埼玉県は2000年の老年人口が2015年で2倍の数字になる。その倍率は全都道府県で1位である*12
感想リンク 一本足の蛸さん

*1:未読

*2:本文と同じくらいグラフに頁をさいている。

*3:集積性とか拠点性とかシビれるよね。

*4:15-64才

*5:通勤通学人口が10%以上の市町村区域含むと本書では都市圏を定義。

*6:95-00年の就業者数は福岡4.4万人増。東京13万人減。名古屋0.8万人減。ちなみに90-95年は3都市圏とも増加。

*7:コンパクトシティに対して著者は肯定的らしい。

*8:「2011年現在は定年を60歳から65歳に引き上げている段階」Wikiの"定年"の項より。

*9:本書では「20-59才」と『実働人口』を説明している。

*10:集まったプラス札(若者)が年が経つとそのままマイナス(老人)になってしまう。山が大きいぶん谷も大きいという理解で良いのかな

*11:20-59才

*12:29頁