フリーフォール グローバル経済はどこまで落ちるのか
「フリーフォール」スティグリッツ (図書館)を読む。2010年2月発行。
米国人ノーベル賞経済学者が金融危機(リーマンショック)を語る。
言ってることの繰り返しが多く、結構飛ばし読み。
前著ではIMFを批判していた()。経済のグローバル化は本来正しい事なのに、米国金融界の意を受けたIMFが"間違った金融のグローバル化"で、世界を混乱に陥れている、と。
今回も「本当、銀行を親の敵みたいに叩くなー」という印象。
政府と中央銀行は金融界に甘く、金融界上層部が法外な報酬を受けている中、国民に負担を押し付けているという立場。大統領であるブッシュとオバマ中央銀行総裁であるグリーンスパンバーナンキ、財務長官のポールソンとガイトナーの無能を批判している。
そうは言っても「金融機関全体の底が抜ければ とてつもない信用不安が起きるんでしょう?」と つい懸念してしまうので米政府の金融業界重視も仕方ないと個人的には思っている。拙速もやむなし。
危機後の回復局面での無駄な金融緩和は、"泥棒(金融業界)に追い銭"だと個人的に思ってるが。
・かつてケインズは不況時における金融政策の有効性を"ひもを押すようなもの"と例えた。
売上げが急落している時に金利を2%から1%に下げても、企業は借金して投資などしない。金利をゼロにしても、おそらく経済の蘇生は望めないだろう。金融政策に望めるのは、せいぜい事態を悪化させないことぐらい。(63頁)
・メキシコでは1994-1997年の間に銀行救済のコストがGDPの15%にも達したが、救済資金の大部分は裕福な銀行オーナーの懐に転がりこみ、銀行の貸し渋りは ほとんど解消されず、信用供与の減少は10年の間にメキシコ経済を低成長に陥れた。10年間で実質賃金は下がり、国民の不公平感は増大した。(77頁)
・世界全体が輸出主導型の成長を遂げるのは不可能だ。1929年の世界大恐慌では世界各国が他国の犠牲で自国を守ろうとした。この"近隣窮乏化"政策は保護主義(関税。貿易障壁)と通貨切り下げ競争(自国通貨を安くする事で輸出を促進する)が含まれるが今日では当時ほどの効果はなく、逆効果となる可能性すらある。(94頁)
アメリカの負債が増大し、FRBのバランスシートが膨らんだ今、世界中でインフレ懸念が高まっている*1。失業率が高止まっている限り、インフレと同程度のデフレの脅威*2が存在する。FRBのジレンマは景気回復が軌道に乗る前に流動性を早く引き揚げすぎると経済は停滞を深めるし、流動性の引き揚げが遅れると本当にインフレを誘発しかねない。過剰流動性の規模を考えるとインフレのリスクは極めて高い。
FRBは過去にないほどの劣悪な資産をバランスシートに計上してきた。事実上FRBの拠出資金が民間セクターを圧迫したといっていい。(204-206頁)
・2009年のオバマ政府予算の増額は州政府の減額と相殺し、景気刺激の効果は ほぼゼロ。(103頁)
エコノミストたちは"期待"を重視するが、期待は現実に根ざすものでなくてはならない。(359頁) 経済学で普及してるモデルは大胆にも個人が合理的であるばかりか超理性的であることを前提としていた。(353頁)
IMFはドミニク・ストロスカーンが専務理事になり、貸出の条件が変わった。以前ほど疫病神ではなくなった。金融危機後にIMFに助けを求めたアイスランド政府は資本統制を課すことと赤字予算を維持することを許された。(304頁)
アメリカの労働力は年に1%ほど伸びている。(91頁)*3
アメリカではインフレ指標の計算からエネルギーと食糧の価格を除外する。しかし、そんなことをすると ほとんどの途上国で物価の決定要素の半分以上を除外することになるだろう。アメリカでも人々は食糧とエネルギーの価格を気にかけている。それがインフレに関する人々の予想と賃金の要求に影響を与えるからだ。(371頁)
関連リンク アフガン銀行危機の不快な茶番*4 経済学を王座から引きずり下ろせ!*5
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*1:日欧米ではデフレ・低インフレが現状。アメリカも大胆な金融緩和にもかかわらず、期待インフレ率(BEI)が低下中。http://d.hatena.ne.jp/keiseisaimin/20100826/1282833936より。急成長の途上国(インド14%)や欧州の一部(ギリシャ5.5%)でインフレ率は高い。

*2:高インフレで高失業率なのはイギリス・ギリシャアイスランドなど。

*3:日本の労働力人口は年に0.8%ほど減っている。http://d.hatena.ne.jp/yumyum2/20090924/p2より計算。

*4:スティグリッツが好きそうな話題。

*5:スティグリッツ発言の同様記述は本書の334頁364頁