目線の話
(島国大和のド畜生さん)
富永太郎の詩を連想。

俯瞰景
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どぷぷちの水たまりをへらへらと泳ぐ高貴な魂がある。
かれの上、梅雨晴れの輝かしい街区の高みを過ぎ行くものは、脂粉の顔、誇りかな香りを放つ髪、新鮮な麦藁帽子、気軽に光るネクタイピン……この魂にとつて、一日も眺めるのを欠くべからざる物らの世界である。さて、かれは、これらの物象の漸層の最下層に身を落としてゐる。軽装の青年紳士の、黒檀のステツキの石突いしづきと均しく位してゐる。しかも、かれは、この低みから、すべての部分がかれの上に在るあの世界をみおろすことのできる、不思議な妖術を学び得た魂である---この屈従的な魂は。


街区の"区"の字は原文は もっと難しい字。"誇りかな"は原文通り。"みおろす"の原文は太字ではなく傍点。