報道できなかった自衛隊イラク従軍記
「報道できなかった自衛隊イラク従軍記」金子貴一(図書館)を読む。面白い。
自衛隊イラク駐屯に通訳として同行したジャーナリスト、金子貴一から見たルポ。
自衛隊の隊長が書いた『イラク自衛隊「戦闘記」』と合わせて読むと理解が進む。現場は大変だとわかる本。本書と比べると、隊長の書いた在イラク記は砂糖菓子のような甘さ。まあ、本書だけ読むのも片手落ちかと思うが。
・往路「自衛隊イラク派遣に反対してる国の上空は通れないらしい」「インドもダメ」の会話。(27頁)
・各国の軍隊がいるクウェートの米軍基地(キャンプ・バージニア)の簡易トイレには色々な国の言葉でブッシュ大統領の悪口が書かれているとの事。(43頁)
クウェートからイラクへ運送会社のトラックで運ばれる自衛隊。携帯電話が通じるのはクウェート国内だけで、イラクに入るとトラック同士 連絡がつかない状態に。結局20台中、9台を一時見失う状態となる。車輌のトラブルもあり、途中で野宿する事となる。(53頁)
トランシーバーとか無線とか無いんだろうか。
・イランイラク戦争時、イラクは遺族に対して大金を払う余裕があった。湾岸戦争と続く空爆以降、イラクは疲弊し、フセインは路線を変える。社会主義路線から部族統治へと転換し、自らを預言者ムハンマドの子孫と称し始めた。(72頁)
自衛隊車輌とイラクの民間の車が交通事故を起こす。著者は自衛隊に「当たり屋ではないか?」と問われる。
日本国内で自衛隊相手の当たり屋が存在しているらしい。著者は「アラブで当たり屋は聞いた事がない。イラクで軍隊は非常に恐れられている」と助言。
イラクで米軍車輌が長い列で走っていた。結婚式に遅れまいと急いでいたイラク人が車列を追い越そうとしたら、米軍に撃たれ死亡。追い越す動きが「敵性車輌」と見られたとの事。
・アラブでは人権より部族の権利が優先される事がある。Aの部族の者をBの部族の者が殺してしまった場合、Aの部族の者は同じだけの人数のBの部族の者を殺す事ができる。
部族は敵と味方の峻別に厳しく、味方と認識すれば命をかけて守ってくれるが、敵とみなせば命が尽きるまで攻撃してくる。政権が倒れるまでビン・ラディンを守ったアフガン政府参照。
ビン・ラディンが日本を敵とする声明を出した時、著者は戦慄したとの事。
自衛隊基地の地権交渉をする為、訪れる際に部族へのお土産(お米)を持っていく事を決定する。著者は「アラブでは客は唯もてなされるのがマナーで、お土産を持っていくと彼らのメンツを潰す」と進言するが、「他国の軍隊でも行っている事だから」と進言を退ける。
結局、著者は間違っていた。部族は困窮しており、マナーも変化するのだ。(144頁)
自衛隊の駐屯地設営は遅れに遅れ、著者は1ヶ月風呂に入れなかった。それまで駐屯地の悪臭はひどかったとの事。(158頁)
・娯楽がなく、Windowsの起動音ですらオーケストラの演奏のように聞こえたとの事。(168頁)
イラクの地権者と交渉をしている自衛隊員の弁「彼らの(したたかな)笑顔を見ると、ぞっとするんですよね」。(172頁)
・ロンドンの汎アラブ新聞編集長の弁
「中東で最も民主主義の進んでいる国はイランだ」との事。民衆の意思がしっかり選挙に反映され、保守派と革新派が入れ替わる事も珍しくない、との事。
陸自イラク派兵総計5500人。3ヶ月交替又は6ヶ月交替。(245頁)
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