大胆と不健全は同義

日銀は死んだのか?―超金融緩和政策の功罪 
「日銀は死んだのか?」加藤出(図書館)を読む。面白い。
経済の解説書。リフレ関連。2001年出版。
当時のゼロ金利量的緩和という金融政策に市場はどう動いたのか、という話。
数字やら日銀の操作が細かく書かれているが、ザックリ結論を言うと
国債買いオペ(量的緩和)は民間金融機関が投資したものを日銀が買い上げるので、それで得た資金は再び安全資金に向かいやすく リスクマネーにならない」(156頁)
と、いうことだろうか。
つまり景気が良くなれば投資が増えるし、悪ければ投資を控える、と。買いオペは ほとんど意味がない。
安全資金とは例えば「日銀当座預金」という金融機関が日銀に持つ口座。ある程度を日銀に預金しておく必要があるのだが、必要以上の「日銀当座預金」に どんどん「ブタ積み」されていくのがゼロ金利量的緩和の時代だったらしい。以前はゼロ金利同然でも あちこち運用していたが、ついに「ブタ積み」への心理的抵抗感がなくなり、市場の金の巡りは悪くなった、との事。(44頁)
・著者は後段で、金融政策に大胆な(不健全な)提言を行っている。その一つに「日銀当座預金」にマイナス金利をつければ、預ければ預けるほど損となり、超過の「日銀当座預金」が減ってお金が循環するのではないか、と考えている。
執筆当時「日銀当座預金」は何の利息も付かなかったが、現在は著者の考えと逆方向に向かっているようだ。
米国では機能していない現実 日銀も始めた「付利」の意義 - ダイヤモンド・オンライン
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インフレターゲット政策についても今まで読んだ中で本書が一番詳しく書かれていた。
特に知りたかった「目標インフレ率のレンジに収まらなかった場合、どうなるのか」という各国の運用について詳しい。
まず、未達時のルールを決めていない国がほとんどである、との事。*1
ニュージーランドインフレターゲットが一番厳しく、目標インフレ率から逸脱した場合に大蔵大臣・中央銀行総裁を「罷免し得る」との事。ただ自動的に解任されるのではなく、実際1995-1996年に逸脱しているのだが罷免されなかった。以後 厳格さは薄れ、2000-2001年にも逸脱したが、責任問題は特に生じていないという緩さだった。
インフレ率をどの数字で表すかについても面白いデータを挙げている。
日本の地価バブルの時にCPI(消費者物価指数)は ほとんど動いておらず、2%以内の理想的なインフレ率だった。(111頁)
インフレターゲット解説リンク 
スティグリッツ(Translation Noteさん訳) 
2ちゃん(MRI(モナー総研HD)さんまとめ)
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「非不胎化」という面白い言葉について。
円売り介入をすると、日銀から市場へ円が放出され、マネタリーベースが増加。増加した分を売りオペで打ち消すのが「不胎化操作」(sterilized operation)。sterilizeは本来「不妊化処理をする。断種する」の意。sterilized operationは素直に直訳すると「不妊化操作」。語呂が悪いので苦心して「不胎化」と造語。(138頁)
円売り介入をしてマネタリーベースが増えても これ幸いと放置するのが「非不胎化」。著者は「ゼロ金利下では景気回復に効果なし」としている。
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戦前の高橋是清の財政政策についても詳述。今も昔も議論されてる中味はほとんど変わらず。昔だから安易だったんだろう、という事は無いようだ。
高橋是清は大幅な円安誘導と輸出の急増(6年で3倍)で当時の日本をデフレから脱却させているが、海外から猛反発を招いて、国際社会で孤立する事となる。「経済黄禍論」「日本商品排斥」「輸入制限措置」など。(147頁187頁)
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その他
ゼロ金利政策で都銀の普通預金が爆発的に膨張。大手行は預金が押し寄せてこないよう防衛的に*2普通預金金利を0.02%に引き下げたが、それでも膨張を続けた。(個人の場合、銀行は預金を拒否しないが、相手が金融法人の場合、預金の拒否は日常的との事)(41頁)
預金拒否リンク Baatarismの溜息通信さん
・大胆(不健全)な金融政策の思考実験
日銀が土地を購入
時価総額が巨大な為、日銀は狂ったように大規模に土地を購入し続けなければならない。
→不自然な買い支えは市場から絶好の売り場とみなされる恐れがある。
関連自己リンク
日銀が直接、中小企業に融資
→政府の特別信用保証制度による融資と本質的に変わらない。勘定が政府か日銀か、の違い。
中小企業白書2000年版によると、特別信用保証制度により1999年度の失業者を7.7万人減らせた*3との事。但し、1999年度に拠出した1兆円は貸し倒れにより、2003年で底をつく可能性あり。*4
・2001年の竹中平蔵経済財政担当相の発言(テレビ朝日)
「国をあげてインフレを起こすならば、公共料金を引き上げたり、公務員の給料を引き上げることが必要となるが、そこまでの自信は今の政治家には無い」
・金融引締めの格言
「パーティが盛り上がってきたら、パンチボウル(酒の入った大きな器)を取り上げなければならない」
ポール・ボルカー(FRB元議長)は政策金利を上げて(5%→20%)、割と簡単にインフレ退治をしたのかと思ったのだけど、
1.インフレ率の上昇に合わせて利上げしても鎮静化せず
2.前人未踏の量的引き締め策を開始しても治まらず
3.カーター政権は「信用抑制特別策」を施策→効果が劇的すぎてすぐ中止→またインフレ
4.結局、インフレ期待が鎮静化するまで2年以上かかった、との事。
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感想/関連リンク 異をとなえんさん 趣味の経済学さん 池田信夫(経済学者) himaginaryの日記さん
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*1:その他、当時のインタゲ採用国は1.誰がインフレ目標を設定してるか? 中央銀行-17ヶ国 中央銀行と政府の協議-23ヶ国 政府-15ヶ国 2.インフレ目標の表示方法 ポイント(例 2.5%)-23ヶ国 シーリング(例 3%以内)-9カ国 レンジ(例 1〜3%)-22ヶ国

*2:預金が増えても運用が困難な為

*3:→関連漫画 そうやねさん

*4:どうなったんだろ